救急救命士の気管挿管実習に思う
医療の高度化が進む中、医師以外の医療職が専門的な医行為を担う機会が増えてきました。救急救命士による気管挿管は、こうした取り組みの先駆けの一つで、すでに20年以上の歴史があります。最近では、特定行為研修を修了した看護師の活躍も広がり、医療の担い手は少しずつ多様になっています。
私たちの施設でも、救急救命士の気管挿管実習を受け入れています。患者さんへの説明と同意、指導体制の確保など、準備にはそれなりの時間と労力がかかります。それでも、地域の救急医療を支える人材の育成に関われることには、大きな意味があると感じています。
気管挿管は、単にチューブを気管に入れるだけの手技ではありません。患者さんの状態を見極め、適切に判断することも大切です。これは、ほかの医行為にも共通することだと思います。
長年、こうした実習に関わる中で、私自身も考えさせられることがありました。手技を教えるだけなら、必要な準備をすべて整え、決められた操作を経験してもらうこともできます。しかし、手技の指導は教育の一側面にすぎません。実際の患者さんを前にして、何を考え、どう向き合うのか。そこまで伝えることの大切さを、経験を重ねる中で感じるようになりました。
そこで、実習に参加する救急救命士の皆さんには、自ら患者さんのもとを訪れ、直接お話しするようにお願いしています。また、できるだけ術中の様子も見てもらい、手術後には再び患者さんを訪ね、お礼を伝えていただくようにしています。
患者さんは、ご自身の手術を控えながら、将来誰かの命を救うかもしれない救急救命士の育成に協力してくださっています。直接お会いし、その篤志に触れることは、技術を学ぶこととはまた違った、大切な経験になるのではないでしょうか。
考えてみれば、私たち医療者も、多くの患者さんのご理解とご協力に支えられながら成長してきました。これは、特定行為研修を受ける看護師や、医学・看護などを学ぶ学生にとっても同じことです。医療者を育てるのは、医療者だけではありません。患者さんもまた、私たちを育ててくださっているのだと思います。
医療技術が進歩し、医行為を担う職種が広がっても、患者さんとの関わりの中で学ぶことの大切さは変わりません。手技を教えるだけでなく、その背景にある患者さんの思いや、医療者として大切にすべき姿勢まで伝えていくことが、私たちの目指す教育のあり方だと考えています。
もちろん、まだ十分にできているとはいえません。日々の診療との両立など、課題も少なくありませんが、技術の習得だけで終わらない教育を目指し、私たち自身も試行錯誤を重ねながら、一歩ずつ取り組んでいきたいと思います。