ERAS® Japan 4th Annual Meeting
日本ERAS®学会 第4回学術集会 開催報告
多職種で実践する
ERAS®の未来に向けて
2026年3月14日(土)、大津市のピアザ淡海において、日本ERAS®学会 第4回学術集会を開催いたしました。多くの皆さまにご参加いただき、盛会のうちに終了することができました。ご講演、ご発表をいただいた先生方、座長をお務めいただいた先生方、共催・協賛をいただいた関係各位、そして運営を支えてくださったすべての皆さまに、心より御礼申し上げます。
日本ERAS®学会 第4回学術集会 会長北川 裕利滋賀医科大学 麻酔学講座 教授
開催概要
- 開催日
- 2026年3月14日(土)
- 会場
- ピアザ淡海(滋賀県大津市)
- テーマ
- 「ERAS®の構成要素をよく知り、多職種で実行しよう!」
- 会長
- 北川裕利(滋賀医科大学 麻酔学講座 教授)
- 共同開催
- 第10回滋賀医科大学特定行為フォーラム

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日本ERAS®学会 第4回学術集会を振り返って
本学術集会では、「ERAS®の構成要素をよく知り、多職種で実行しよう!」をテーマに掲げました。
ERAS®は、早期離床や早期経口摂取といった個別の取り組みにとどまるものではありません。患者教育、栄養管理、麻酔管理、疼痛管理、体温管理、リハビリテーションなど、術前から術後までのさまざまな介入を組み合わせ、患者さんの身体的・心理的負担を軽減し、より良い回復を目指す包括的な周術期管理プログラムです。
学術集会では、ERAS®を構成する各要素に関する最新の知見に加え、実際の臨床現場にどのように導入し、組織として継続していくかについて、多くのご発表をいただきました。各施設の実践例や課題が共有され、外科医、麻酔科医、看護師、管理栄養士、薬剤師、リハビリテーションスタッフなど、多職種が共通の目標を持って協働することの重要性を、改めて確認する機会となりました。
また、海外におけるERAS®の普及や、病院全体で取り組むための制度・組織づくりについても紹介されました。医療制度や文化が異なっても、ERAS®を定着させるためには、個々の医療者の努力だけでなく、組織としての支援と継続的な評価・改善が不可欠であることが示されました。
今回の学術集会を通じて、ERAS®は特定の診療科や職種だけが担うものではなく、患者さんを中心として、周術期医療に関わるすべての職種が協力して進める医療であることを共有できたと考えています。
本学術集会で得られた知見や新たなつながりが、各施設における実践へとつながり、患者さんの安全とより良い回復に寄与することを願っております。第4回学術集会の成果を次回以降へ引き継ぎ、日本におけるERAS®のさらなる普及と発展に貢献してまいりたいと思います。
最後になりましたが、本学術集会の開催に際し、多大なるご支援とご協力を賜りました皆さまに、改めて深く感謝申し上げます。
滋賀医科大学麻酔学講座のERAS®への取り組み
滋賀医科大学麻酔学講座では、周術期管理の充実を重要な課題と位置付け、術前評価、麻酔管理、術後疼痛管理、体温管理、早期離床など、患者さんの術後回復を支える取り組みを進めてきました。
ERAS®の実践において、麻酔科医は重要な役割を担います。適切な麻酔方法の選択、手術侵襲の軽減、輸液管理、体温維持、術後悪心・嘔吐対策、オピオイド使用量の削減、術後疼痛管理などは、患者さんが安全に手術を乗り越え、早期に本来の生活へ戻るために欠かせません。これらは、麻酔科が日常診療の中で積み重ねてきた実践そのものでもあります。
一方、ERAS®を実効性のあるものとするためには、麻酔科単独の取り組みでは不十分です。当講座では、麻酔科が手術室、集中治療部門、病棟をつなぐ立場を生かし、外科医、看護師、管理栄養士、薬剤師、リハビリテーションスタッフ、臨床工学技士など、多職種の橋渡し役を担うことが重要であると考えています。
日本ERAS®学会 第4回学術集会を滋賀の地で開催できたことは、これまでの周術期管理に関する取り組みを振り返るとともに、今後の方向性を考える貴重な機会となりました。また、滋賀医科大学がERAS®を実践し、教育・臨床・研究の各面から発信する拠点の一つとなるための、新たな出発点でもありました。
今後も日本ERAS®学会との連携を深め、患者さんにとって安全で負担が少なく、より良い回復を実現できる周術期医療を目指して取り組んでまいります。
滋賀医科大学特定行為フォーラムとの共同開催について
日本ERAS®学会 第4回学術集会では、第10回滋賀医科大学特定行為フォーラムを共同開催しました。今回は対面とオンラインを組み合わせたハイブリッド形式とし、午前の部と午後の部の二部構成で実施しました。
滋賀医科大学では、看護師特定行為研修制度の普及と研修修了者の活用を進めてきました。第10回という節目を迎えた今回のフォーラムを日本ERAS®学会 第4回学術集会と共同開催したのは、患者さんの状態を継続的に評価し、必要な介入を適切なタイミングで行うというERAS®の理念と、看護師特定行為との親和性を広く共有したいと考えたためです。
午前の部
午前の部は、2025年度「滋賀県の特定行為を広めよう集会」との合同企画として、「術後早期回復(ERAS®)プログラムを看護師特定行為に活かす―術前から退院後まで特定看護師による早期回復支援―」をテーマに開催しました。
第1部では、滋賀県健康医療福祉部医療政策課の加賀爪雅江氏から、「滋賀県の医療の課題―日本の医療の動向と働き方改革、特定行為研修への期待―」と題して、地域医療が抱える課題と、今後の医療提供体制において特定行為研修修了者に期待される役割についてご講演いただきました。続いて、滋賀医科大学看護師特定行為研修センター副センター長の深田章子氏から、特定行為研修制度の概要と本学における研修について説明がありました。
第2部の実践報告では、名古屋市立大学大学院看護学研究科の中井智子氏に座長をお務めいただきました。
公立甲賀病院麻酔科の診療看護師、山下祐貴氏からは、「ERASの成功は“術前で始まり”、そして“術中で方向性が決まる”―看護師が描く“回復の設計図”―」と題し、術前評価から術中管理までを連続した回復支援として捉え、看護師が患者さんの回復過程を見通して関与することの重要性が示されました。
滋賀県立総合病院の特定看護師、岡田奈央氏からは、「急性期患者における特定看護師による早期回復支援」として、急性期医療の現場における実践が報告されました。また、長浜病院訪問看護ステーション所長・特定看護師の河野智一氏からは、「胃がん術後在宅療養者の心身機能低下に対する訪問看護所属の特定看護師による早期回復支援」と題し、退院後の生活を見据えた在宅での支援について報告いただきました。
これらの報告を通じて、ERAS®における早期回復支援は、手術室や入院中の管理だけで完結するものではなく、術前から急性期、退院後の在宅療養までを一つの連続した過程として捉える必要があることが示されました。また、特定行為研修修了者は、個々の処置を担うだけでなく、患者さんの変化を早期に捉え、医師や他職種、さらには病院と在宅医療をつなぐ役割を果たし得ることが共有されました。
午後の部
午後の部では、「特定看護師が創る次世代医療―制度10年の総括と展望―」をテーマに、看護師特定行為研修制度の10年間を振り返るとともに、今後の制度のあり方について議論しました。
第1部の講演では、滋賀医科大学基礎看護学講座教授・看護師特定行為研修センター副センター長の馬場重樹氏に座長をお務めいただきました。
厚生労働省医政局看護課看護サービス推進室長の初村恵氏からは、「特定行為に係る看護師の研修制度10年の歩み」として、制度創設から現在までの経緯と、今後期待される方向性についてご講演いただきました。
ヴェクソンインターナショナル株式会社の道又元裕氏からは、「看護雑誌編集を通して見た特定行為制度の10年とこれから」と題し、多くの実践を見てきた立場から、制度の広がりと現場に残された課題が示されました。
長野保健医療大学准教授で日本手術看護学会理事長のミルズしげ子氏からは、「特定行為研修修了看護師を含む手術室看護師の実態と課題―日本手術看護学会の実態調査から」として、手術室における研修修了者の活動状況と、活用を進めるうえでの課題について報告いただきました。
札幌医科大学保健医療学部の山本武志氏からは、「特定行為研修制度を有効に活用する/活用される方略の検討」と題し、研修修了者本人と組織の双方の視点から、制度を実効性のあるものとするための方策が提示されました。
続くパネルディスカッションでは、「次の10年に向けて―制度の深化と看護の新しい地平」をテーマに、北川裕利がモデレーターを務め、初村氏、道又氏、ミルズ氏、山本氏、馬場氏にご登壇いただきました。制度の普及にとどまらず、研修修了者を組織の中でどのように位置付け、その能力を患者ケアの向上に結び付けていくかについて、活発な議論が交わされました。
研修修了者を活かすための組織づくり
今回のフォーラムを総括すると、看護師特定行為研修制度は、制度開始から10年を経て、研修修了者を「育成する段階」から、実際の医療現場で「どのように活用し、成果につなげるか」を問う段階へ移ったと考えます。研修を修了した看護師を配置するだけでは、その能力を十分に発揮することはできません。対象患者や活動範囲の明確化、手順書の整備、医師との連携、継続教育、活動評価、組織内での役割の位置付けなど、研修修了後を支える体制づくりが不可欠です。
また、特定行為は、医師の業務負担を軽減するためだけのものではありません。看護師がこれまで培ってきた生活支援や患者理解の視点に、医学的判断と実践能力を加えることにより、患者さんに必要な医療を適切なタイミングで提供し、診療と看護をより緊密につなぐことに本来の意義があります。
ERAS®と看護師特定行為のこれから
その実践の枠組みとして、患者さんの回復という共通目標を持ち、多職種が標準化されたプログラムに沿って協働するERAS®は、非常に適していると考えます。今回の共同開催は、日本ERAS®学会の参加者に看護師特定行為の可能性を知っていただくとともに、特定行為フォーラムの参加者にERAS®の理念と実践を理解していただく、相互交流の機会となりました。
今後は、今回示された実践を各施設の具体的な活動へとつなげ、患者アウトカム、医療の質と安全性、在院日数、医療従事者の負担などの観点から、その成果を評価していくことが求められます。第10回フォーラムが、制度の次の10年を考え、看護師特定行為を患者さんの安全とより良い回復に結び付けるための、新たな出発点となることを願っています。
プログラム
9:50
会長あいさつ
北川裕利(滋賀医科大学 麻酔学講座 教授)
10:00
モーニングセミナー
協 賛:テルモ株式会社
座 長:海野倫明(東北大学大学院 医学系研究科 消化器外科学 教授)
術後の回復と術後痛の管理
演 者:天谷文昌(京都府立医科大学 麻酔科学教室 教授)
11:00
教育講演
協 賛:日本ベクトン・ディッキンソン株式会社(エドワーズライフサイエンス合同会社 旧クリティカルケア事業部)
座 長:北川裕利(滋賀医科大学 麻酔学講座 教授)
血行動態モニタリングによる術中管理で目指す術後早期回復
演 者:山本俊介(大阪大学大学院 医学系研究科 麻酔集中治療医学教室 助教)
12:00
ランチョンセミナー
協 賛:ソルベンタム合同会社
座 長:森松博史(岡山大学病院 麻酔科蘇生科 教授)
プレハビリテーションはERAS®の一部となるか?
演 者:位田みつる(奈良県立医科大学附属病院 麻酔科)
なぜ麻酔前に温めるのか?――プレウォーミングの臨床的意義
演 者:川西良典(徳島大学病院 手術部)
13:00
教育講演
協 賛:株式会社フィリップス・ジャパン
座 長:平野 聡(北海道大学大学院医学研究院 外科学講座 教授)
遠隔集中治療の効果と今後の活用方法
演 者:小谷 透(昭和医科大学 特任教授/eICUセンター長)
14:00
ERAS®学会 海外セッション
座 長:高折恭一(長浜市病院事業管理者)
:小谷穣治(神戸大学大学院医学研究科 外科系講座 災害・救急医学分野 教授)
Scaling ERAS with Policy Levers: National Reimbursement Add-On, Audit Metrics& Hospital Transformation in Taiwan
演 者:Shu-Lin Guo(Taiwan Chapter, ERAS® Society)
Message from the ERAS® Society:Olle Ljungqvist(Ambassador from the ERAS® Society)
14:50
ERAS® Japan Best Practice Award授賞式
プレゼンター:高折恭一(長浜市病院事業管理者)
:北川裕利(滋賀医科大学 麻酔学講座 教授)
14:55
ERAS® Japan Best Practice Award受賞講演
座 長:山口博紀(自治医科大学 外科学講座 消化器一般移植外科学部門 主任教授)
当院における肺癌周術期リハビリテーションの標準化への歩みと高齢患者における新たな課題抽出の試み
演 者:豊田光彩(京都大学医学部附属病院 リハビリテーション部)
ホエイプロテイン含有クリア飲料による術前炭水化物負荷と術中低体温症との関連
演 者:中西一起(市立ひらかた病院 栄養管理科)
逆U字法(温風式加温)による周術期体温管理の最適化
演 者:河野幸一(兵庫医科大学病院 10-9病棟)
15:25
一般演題(口演)
座 長:高橋 完(金沢医科大学 麻酔科学講座 教授)
:竹林克士(滋賀医科大学医学部附属病院 栄養治療部 副部長)
入院前から骨盤内臓全摘術患者に対する術前パンフレットを用いた外来教育介入の有用性
演 者:大塚愛未(兵庫医科大学病院 看護部)
リモートプレハビリテーション普及に向けた動画教材と遠隔栄養指導を併用したハイブリッド型介入モデルの構築
演 者:佐藤眞理子(奈良県立医科大学大学院 医学研究科 博士課程)
ERAS導入初期における膵頭十二指腸切除術症例の周術期身体機能および骨格筋量の推移――理学療法士が関与した定量的評価
演 者:越田隼東(兵庫県立尼崎総合医療センター リハビリテーション部)
心臓血管外科開心術における早期回復に向けた取り組み
演 者:荒木田真子(東京女子医科大学病院)
退院許可日が術後11日以上となったERAS®患者の背景
演 者:石橋 孝(市立長浜病院 リハビリテーション技術科)
16:25
シンポジウム
協 賛:アイドゥ株式会社
座 長:鍋谷圭宏(千葉県がんセンター 副病院長)
:青山朋樹(京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 先端リハビリテーション科学コース 教授)
ERAS®における周麻酔期看護師の戦略的介入――周麻酔期管理の標準化と多職種連携の質向上にむけて
演 者:高田憲明(市立長浜病院 看護局中央手術室)
ERAS®を支える薬物療法最適化――術前服薬指導、制吐・鎮痛薬の合理的使用、術後せん妄予防への関与
演 者:柴田ゆうか(日本大学薬学部 薬剤師教育センター 教授)
栄養管理の重要性――早期栄養介入、フレイル患者への関わり
演 者:岩本昌子(神戸市立医療センター中央市民病院 栄養管理部)
早期離床と周術期リハビリの実際――理学療法士の目線からERAS®プロトコールを考える
演 者:吉岡佑二(京都大学医学部附属病院 リハビリテーション部)
17:35
閉会あいさつ
北川裕利(滋賀医科大学 麻酔学講座 教授)
17:40
次回会長あいさつ
山口博紀(自治医科大学 外科学講座 消化器一般移植外科学部門 主任教授)
17:45
閉会